個人事業主が知っておくべき社会保険の種類
個人事業主に関係する社会保険を解説!加入すべき保険と加入できる保険・従業員のための保険とは
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個人事業主が知っておくべき保険制度と社会保険の種類、会社員との違いを解説します。
個人事業主は会社員や公務員とは、加入すべき社会保険の種類が違います。
そのため、特に会社員から個人事業主になる際には、自分に関係する社会保険を把握しておくことが大切です。
個人事業主が入るべき保険や入れる保険を知ることで、手続きし忘れをなくし、起業した際の社会保障の有無を理解しておきましょう。
個人事業主の社会保険のルールには特例もあり、中には原則会社員のみだけど条件次第で入れる保険や任意で入れる保険もあるため、加入したい人は注意が必要です。
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この記事の目次
個人事業主と社会保険制度
個人事業主になると、会社員時代とは社会保険の種類が変わります。
個人事業主は、手続きを自分でしなければならないため、自分自身で社会保険のこともしっかり把握していなければいけません。
また、会社員時代には加入していたのに個人事業主になると入れない保険もあります。
これは働き方が変わったことによるものですが、こうした変化も理解した上で個人事業主として社会保険とその保障を利用することが必要です。
社会保険の種類
社会保険の種類は、「健康保険」「介護保険」「年金保険」「雇用保険」「労災保険」の5つです。そのうち雇用保険と労災保険を労働保険と呼びます。
社会保険の中でも健康保険と介護保険、年金保険については、会社員と個人事業主では加入する団体が違います。
そのため、会社員から個人事業主になった際には、これまで加入していた保険から新しい保険に切り替えることが必要です。
国民皆保険制度
日本では、国民すべてが公的医療保険に加入する国民皆保険制度が確立しています。
つまり、会社員でも個人事業主でも、働いていない人でも、すべての人が何らかの保険に入る必要があるということです。
そのため、会社を退職してこれまで加入していた健康保険を抜けたら、必ず他の公的医療保険に入る必要があります。
個人事業主になると収入が不安定になることもありますが、「お金が心配だから加入しない」という選択肢ありません。
また、同様に年金保険についても日本では「国民皆年金制度」としてすべての人が何らかの公的年金制度の対象になっています。
個人事業主には入れない保険もある
国民すべてが加入する必要のある保険は、健康保険と年金保険のみです。
雇用保険と労災保険については、会社員のみが加入できることになっており、個人事業主は入れません。
これは、雇用保険や労災保険は「雇用されている労働者」のための保険だからです。個人事業主は誰からも雇用されていないため、雇用保険や労災保険の対象にはなりません。
個人事業主は自分で加入手続きを
個人事業主は社会保険の加入手続きを自主的に行う必要があります。会社員のように手続きを会社が代わりにやってくれるようなことはありません。
加入が必要な社会保険には自分でしっかりと手続きをして加入しておきましょう。
個人事業主が入れる社会保険とは
個人事業主は会社員とは異なる社会保険に加入する必要があります。個人事業主になる人は、自分が加入するべき保険と加入できる保険を把握しておきましょう。
特例で加入できることがある保険については、条件も知っておかなければいけません。
入る必要がある保険
個人事業主になったら、会社員時代の保険から切り替えて、加入しなければいけない保険は以下の3つです。ただし、介護保険は年齢によって加入の必要性が変わります。
国民健康保険
国民健康保険は、公的医療保険として「国民皆保険制度」の日本では必ず入らなければいけない保険です。会社員は会社の規模や業種に応じた別の健康保険に入っています。働いていない人は配偶者や親の扶養になっている人もいます。
国民健康保険は、会社員の保険や扶養に入っていない人が加入する保険です。会社を辞めて個人事業主になった人は、14日以内に手続きしなければいけません。
介護保険
介護保険は、高齢者の介護負担を社会で支えるための保険制度です。満40歳の誕生日の前日が属する月から第2号被保険者となります。
時期が来れば健康保険の保険料と一緒に徴収されるため、介護保険単体について加入手続きをする必要はありません。
個人事業主の場合も、国民健康保険への切替手続きをするだけで、国民健康保険の保険料と一緒に徴収が始まります。
国民年金
国民年金保険は、健康保険と同様に、個人事業主でも加入が必須の保険制度です。
将来、老年になった時、障害状態になった時、働けなくなった時などに保障してもらえる制度となります。
加入の対象は、個人事業主の他に、20歳になった学生などです。20歳から60歳未満の人はすべて加入することになります。
日本年金機構が管轄しており、加入や免除、猶予、追納を管理しています。
個人事業主になって収入が安定せず保険料の納付が難しい場合には、免除や猶予などの措置を依頼することが可能です。
国民年金の手続きも国民健康保険と同じく、退職後14日以内に行います。
特別に入れる保険
本来会社員しか入れないけど、会社員から個人事業主になった場合など、特別な条件が合えば入れる保険もあります。
条件に当てはまる場合には、加入も検討してみると良いでしょう。加入すると保険料はかかりますが、その後の備えになります。
会社員時代の健康保険の任意継続
会社員から個人事業主になった場合には、会社員時代の健康保険を任意で継続できます。任意継続の資格は退職日の翌日に取得でき、加入期間は2年間となります。
任意で継続するには、その健康保険の被保険者期間が2カ月以上あること、退職の翌日から20日以内に手続きすることが条件です。
ただし、会社員時代には会社負担分だった保険料をすべて自己負担しなければいけません。また、保険料を1日でも滞納すると資格を失います。
労災保険の特別加入
労災保険は、雇用されている労働者のための保険です。個人事業主は基本的には入れませんが、特別なケースのみ加入が認められることがあります。
特別加入の対象となるのは、仕事の性質上、体を負傷しやすい人です。
具体的には個人タクシーやひとり親方の大工さん、漁船による採捕事業などがあります。労働局から承認を受けた特別加入団体を通じて手続きを行います。
個人事業主と会社員で社会保険の違い
個人事業主と会社員では、社会保険の種類が異なります。2つの働き方での社会保険の違いをチェックしてみましょう。
国民健康保険と健康保険組合
個人事業主は国民健康保険が公的医療保険となりますが、会社員の場合には会社ごとの健康保険組合や協会けんぽという団体の保険に入っています。
大きな規模の会社では組合の健康保険、中小起業では一般的に協会けんぽが多いものです。
国民健康保険には「扶養」という概念がなく、子どもや無職の家族であっても一定の保険料が発生し、世帯ごとに計算されます。
しかし、会社員の健康保険では所得の少ない家族を扶養者として自分の健康保険に入れることが可能です。
会社員の保険では、それぞれに独自の給付金や手当金もあります。
国民年金と厚生年金
国民年金は、会社員でも個人事業主でも加入している制度で、会社員は国民年金に上乗せする形で厚生年金に加入しています。
また、会社員の場合には、さらにその上に企業年金などの私的年金が上乗せされることもあります。個人事業主は、上乗せされていた厚生年金がなくなり、国民年金一本です。
ただし、厚生年金がなくなったことで会社員との年金格差が出てしまうのを避けるために「国民年金基金」という制度が作られています。
国民年金だけでは将来の年金額に不安を感じる個人事業主は、国民年金基金の加入も検討してみましょう。
会社員のみ雇用保険と労災保険
雇用保険と労災保険は基本的に雇用されている労働者の保険です。そのため、個人事業主は原則対象外、会社員のみが加入しています。
個人事業主が従業員を雇うと、従業員のために手続きする必要も出てきますが、事業主が加入することはできません。
公務員は共済組合
公務員は、会社員とも個人事業主とも異なる団体の保険に加入しています。国家公務員共済、地方公務員共済といった共済組合の保険が公務員の社会保険です。
共済の短期給付が国民健康保険や組合健保などにあたります。
また、年金保険の部分は、以前は長期給付として扱われていましたが、平成27年に公務員も厚生年金に一本化されました。
従業員を雇用している個人事業主に関係ある社会保険とは
従業員を雇用している個人事業主は、従業員のために社会保険の手続きが必要です。
個人事業主本人については、国民年金と国民健康保険のままですが、必要に応じて手続きを行っておきましょう。
従業員のために加入できる保険
従業員を雇用した場合には従業員のために雇用保険と厚生年金、健康保険に加入することが可能です。
ただし、条件を満たす必要があるため、加入を目指す際には勤務状況も配慮しましょう。
雇用保険
雇用保険は同居の親族以外の従業員を雇用し、所定労働時間が20時間以上、31日以上の雇用見込みがある場合には、加入が必要です。
ただし、個人事業主と同居している親族が雇用保険に加入するには条件があります。
親族の雇用保険加入には、事業主の指揮命令に従って働いていること、勤務実態や賃金が他の従業員と同じこと、取締役などについていないことを満たすことが必要です。
厚生年金と健康保険
個人事業主でも会社と同じように厚生年金と健康保険の適用事業所になり、従業員をこれらの保険に加入させることができます。
任意なので、加入はどちらか一方でも可能です。条件としては、従業員の半数以上が同意し、年金事務所に認可を受けることが必要です。
加入したら、事業主は従業員の保険料を半分負担する義務が生じます。
ただし、雇用状況によっては加入が義務になることもあります。
常時5人以上の従業員が働いている、サービス業や農業、漁業など以外の業種の場合には、加入しなければいけません。
従業員のために加入が義務である保険
従業員のために、個人事業主でも加入が義務付けられている保険もあります。個人事業主であっても、1人でも従業員がいたら加入は義務となります。
労災保険
労災保険は、従業員を雇用したら必ず加入しなければいけない保険です。正社員でもパートやアルバイトでも加入は必須です。
労災保険料は、全額を事業主が負担することになります。
保険料の経理処理
個人事業主が従業員を雇用し、社会保険の加入が必要となった場合、会社負担の保険料が発生します。
発生した保険料は確定申告の際にどのように処理すれば良いのでしょう。保険料の経理処理の方法を解説します。
本人の保険料は経費ではない
まず、個人事業主本人の保険料は、すべて経費にはなりません。ただし、国民健康保険料や国民年金保険料などは、すべて社会保険控除で課税対象の所得から控除できます。
確定申告の際に、申告対象の年に支払ったすべての社会保険料を申告しましょう。猶予になっていた古い保険料であってもその年内に支払ったらすべて控除の対象です。
従業員の保険料は法定福利費
従業員のために支払った保険料は、法定福利費として経理処理できます。
給料支払いの後で社会保険料は納付するため、給料日に天引きした分を預かり金として計上し、会社負担分は法定福利費として未払費用にしておきます。
まとめ
個人事業主の入れる社会保険は、会社員の加入する保険とは異なります。会社員から個人事業主になった場合、これまで加入していた保険に入れないこともあります。
ただし、任意で加入できるものもあるため、自分が入りたい保険の対象になっているか確認してみましょう。
また、従業員を雇用する際には、自分だけでなく従業員のためにどんな保険に加入できるか知っておくことが大切です。
ただし、加入によって保険料の負担も増えるため、加入すればいいとは限りません。
(編集:創業手帳編集部)